留学・派遣

救急センター派遣

1970年代から救命センターにおける精神科医療の重要性が報告されてきました。しかし、精神科医を救命センターに常駐させて密な精神科医医療を提供している施設は、現在でも全国に数か所しかありません。当院関西医科大学総合医療センターはその一つで、2001年から救命センター常駐の精神科医としての業務を担っています。

体験記1  リエゾンチーム発足について

関西医科大学精神神経科学教室 北浦 祐一

“リエゾン(Liaison)”とはフランス語で“連携”を意味し、精神科医が身体科の患者様に生じる様々な精神症状(不眠、不安、抑うつ、気持ちのつらさ、せん妄など)に対して主治医や病棟スタッフ、ご家族と“連携”しながら治療にあたる医療です。関西医科大学総合医療センターは大阪府下でも数少ない精神科病床を有する総合病院であり、関西医科大学病院においては唯一精神科病床を有する病院です。当院では、平成27年7月よりリエゾンチームが発足し、精神・心理的な問題を抱える患者様の生活の質がよりよいものになるよう治療にあたっております。リエゾンチームは現在精神科リエゾン医1名、認知症看護認定看護師1名、精神保健福祉士1名によって構成されており、週に2回(火曜日・金曜日)身体科の主治医から依頼を受けた患者様のカンファレンスを診察の前に行い、チームで病棟に往診でうかがい診察をさせていただいております。往診の際には、主治医や病棟スタッフと患者様の情報共有を行い、診察後にもカンファレンスを行うことで、多角的な視点で対策を立てていることから不足ない医療を提供できるよう日々努力しております。依頼の多くは“せん妄”であり、これは特に、高齢者の身体症状の悪化に伴っておこり、身体治療の妨げになる症状(不眠、物忘れ症状、幻覚妄想、興奮、点滴の自己抜去など)を呈する寝ぼけのような状態です。超高齢化社会に突入している日本の医療において、今後せん妄になる患者様は増えていくことが予想され、リエゾンが必要とされる時代が来ていると考えております。まだまだ発足して間もなく、至らない点もあるかと思いますが、患者様によりよい医療が提供できるよう頑張っていきたいと思います。

精神科医として、幅が広がります。

関西医科大学精神神経科/救命救急科 池田 俊一郎

2015年(平成27年)10月より、関西医科大学の精神科と救命救急センターを兼務し勤務しております。関西医科大学精神神経科は、以前より救急医学科と連携しており、2001年より救命救急センターに精神科医が常駐し、様々な精神合併症、リエゾン治療を行ってきました。また、自殺対策にも力を入れており、様々な自殺未遂者支援、調査を行っております。救命救急センター先生方は、非常にタフと同時にやさしいですが、特に関西医大総合医療センター救命救急センターの先生方は、現在は精神科病院へ週1度往診をしてくださり、全国の救急診療科の中でも精神科に対しての理解が非常に深く、とても仕事がしやすいです。

このような環境の中で、主にしている僕のしている業務は、精神科救急医療(精神科の急性期の医療)、緊張病、てんかんによる意識障害、解離性障害などの鑑別・治療、精神科単科病院より転院し身体合併症を有している患者さんの精神科的なアセスメント、自殺企図患者の診察・評価、せん妄など精神科リエゾン治療などです。現在、精神科単科病院でも未治療の急性期の精神疾患と出会う機会も減ってきていますが、救命救急センターのでは数多く搬送されていることに驚きます。また、総合病院でのリエゾン精神医学は専門医取得の一分野になるほど注目されていますが、その最前線で仕事ができることもとても楽しいです。また、近年、精神科医療の中で辺縁系脳炎など身体疾患との鑑別と要する症例も注目されています。しかし、実際にそのような症例を経験できることは非常に数が少ないですが、救命救急センターのでは数多く経験できています。

現在、救命救急センターには、精神科医2名が所属しておりそれぞれ相談し補完できますし、院内に精神神経科の多くの精神科医が所属し病棟もありますので、様々なことを柔軟に幅広く対応できます。2015年度からは、救命救急センター内に、精神科、救急診療科の連携のもと、大阪府の事業の一環として、「自殺未遂者支援センター」を開設し、さらに自殺防止に努めています。精神科の社会貢献の中で自殺を予防するということも重要な一つですので、非常にやりがいを感じて仕事をしています。

このように、精神科医としても他では出来ない最前線でやりがいのある職場があることも、関西医科大学精神科の特徴だと思います。

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国内留学

大学病院で様々な臨床精神医学を学び、専門医や指定医を取得した後、より専門的な分野で研鑽を積みたいと考える方には、研究による内地留学や臨床による国内留学をするという方法があります。
留学先で得た専門的な知識や経験を生かし、帰向後に引き続きそのフィールドで臨床や研究を行うことも可能です。

三重県立小児心療センターあすなろ学園に留学


※画像転載許可取得済み

精神医学的見立てを行う際には、生まれ持った資質や幼少時からの環境を治療者が知ることが大切です。

児童精神医学(子ども臨床)は、乳幼児期から青年期までの心や脳の発達に寄り添う分野なのですが、一般精神科臨床を行ううえで大切なことも教えてくれます。

私は精神科医を志した頃から児童精神医学に興味があり、指定医取得後の2001年4月から2004年4月まで、三重県立小児心療センターあすなろ学園に国内留学致しました。

あすなろ学園は日本で唯一の児童精神科単科病院(80床)です。ここで児童精神科外来、未就学児から中学生までの入院治療を行いました。学園の仕事以外にも児童自立支援施設、児童相談所の嘱託医、サテライトクリニックの児童外来、就学指導委員会委員など様々な経験もさせていただきました。

あすなろ学園で一番学んだことは、子ども臨床において他職種の方々や教育機関との連携やチームワークがとても大切だということです。子ども臨床を行うには、医療というスタンスだけでなく、福祉的な知識や関わりが必要になるのですが、医療従事者には思いつかないような素晴らしい子どもとの関わり方や治療のヒントとなることをチームからたくさん学びました。大変な状況にある一人の子どものために、大勢の他職種の大人が何ヶ月も何年もかけて処遇を考えていきます。近年は虐待のニュースが流れない日はない状態ですが、その一方で懸命に対処しようとする大人も大勢いるということも知っていただけたらと思います。あすなろ学園は、様々な大学の医局から来られているため、他府県の臨床や学びの様子を知ることもでき同僚からも得るものが大きいです。

あすなろ学園で経験したことは、今の臨床スタイルの原点になるほど貴重なことです。これからも子ども臨床の小さな石垣の一つとして児童精神医学に貢献していきたいと考えております。

上野 千穂 

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国内留学

学位取得後、海外の施設でさらなる研鑽を積み、より多くの知識にもとづいた幅広い考え方を身につけることができます。また、臨床から離れ美しい景色や歴史的な建造物に囲まれた環境でゆっくりと勉強できる、人生にかけがえのない経験ができます。
異なる文化、環境、考え方をする国に住み、外から日本を見つめ直すことで、精神科としての柔軟な考え方も身につけることができ、各フィールドのリーダーとしての素養が得られます。

イタリア共和国ボローニャ大学精神科に留学

はじめに

イタリア共和国ボローニャにありますボローニャ大学(Alma mater studiorum- University of Bologna)精神科に2006年6月〜2008年8月の期間留学しておりました加藤正樹です。
イタリアのゆったりとしたペースになっていた体内時計も、今はもうあくせくと仕事をこなす日本のペースに戻ってしまいましたが、美味しい食べ物と、中世の建物、美しい音楽のある恵まれた環境で過ごすことが出来た充実した研究生活を振り返り、ここに報告させていただき、医学留学先としては珍しい、イタリアの留学生活の魅力を少しでも感じていただけたら幸いです。

世界最古ボローニャ大学


ポルティコと呼ばれる屋根付き柱廊

斜塔の上からボローニャ旧市街を見下ろす

イタリアのボローニャはイタリア北部のエミリアロマーニャ州の州都です。エミリアロマーニャ州には他にもプロシュート(ハム)やパルメザンチーズで有名なパルマ、バルサミコ酢やフェラーリ工場で有名なモデナがあります。

ボローニャ大学は1088年に創設されたヨーロッパ最古かつ、現存する大学では世界最古で、ダンテ、ガリレオ、コペルニクスなども学んだ大学であり、現在10万人を超える学生が在籍している日本では考えられないほど古い歴史と在学生数を持つ大学です。
世界で最初に解剖学講義を行ったことでも知られ、その時の教室が今でも残されており、見学する事が出来ます。

ボローニャは、大学を中心とした学生の街であり、イタリアの胃袋ともいわれる食の街でもあります。また、コンサートやオペラ、見本市など公共の催し物にイタリアで一番お金をかけていること、オペラをはじめとする音楽教育に対する取り組みが評価され、ユネスコの文化活動遺産に指定されています。
その政治的傾向と、建物の色から赤の街ともよばれています。

街の中心には、大きくて美しいマッジョーレ広場があり、その一角に教会、市庁舎、噴水そして2本の斜塔などの壮麗な建造物がならび、その広場を中心に外に向かって放射状に道路が走り、中世の城壁と城門に囲まれています。街中に張り巡らされたポルティコとよばれる屋根付きの柱廊や、イタリアでも屈指のオペラ劇場などもあり観光客も多く訪れます。
私の所属したDr.Serrettiの研究室は、街を囲む城壁の西側の壁沿いにありました。Dr. Serrettiは、serotonin transporter gene promoter polymorphism(5-HTTLPR;セロトニントランスポータープロモーター部遺伝子多型)と抗うつ薬の臨床効果の関連性に早くから注目し、その結果を世界で初めて報告したSmeraldiのグループの中心となっていた精神科医であり、その後も継続的に、感情病圏における薬理遺伝分野で第一線で活躍しています。
この研究室の主要構成メンバーは精神科医3名と臨床心理士2名と、とてもコンパクトなのですが、ここでは薬理遺伝研究の他にも臨床薬理、臨床心理に関する研究を活発に行い、年間40本ほどの論文を報告しております。そのような研究室で、私が携わっていた研究概要と研究成果を報告しております。興味ある方はご覧ください。

寄稿「臨床薬理学海外研修を終えて」(PDF)

海外で研究するということ


2006年イタリアがワールドカップで優勝

イタリアで過ごした2年2ヶ月は、今振り返ると夢の中の出来事のようです。言葉、文化、生活習慣が異なる国で、とまどいながらも、日本では体験できないような生活を体験し、研究に関してもいくつかの成果を出すことが出来ました。
外から日本や、自分の大学をみるという機会を持つことにより、日本や自分の大学の良い部分を実感でき同時に苦手としており改善すべき部分にも気がつくことが出来ました。
留学で得た知識と経験を活用し、引き続き研究活動にとりくみ、今後も精神科領域における臨床薬理学の発展に貢献出来るように努力していきたいと思います。

加藤 正樹

Harvard大学神経画像研究所 Psychiatry Neuroimaging Laboratoryに留学

Harvard Medical School

Harvard Medical School は、レンガ色の街並みと緑が気持ちいいボストンにあります。
私の所属するHarvard大学神経画像研究所Psychiatry Neuroimaging Laboratory (PNLと呼んでいます)は、この広いMedical Areaの中でも、ボストンレッドソックスの本拠地のフェンウェイパークの隣にあります。
野球の試合がある日は研究所の周りがファンでいっぱいになります。研究所の裏の階段からは、すぐそこに球場の電光掲示板が見えます。いつもファンの大歓声がありました。
そんな少し変わった環境で、最先端の技術を使った脳画像研究に取り組んでいました。
何かと心細いアメリカ生活でしたが、イチローや松坂、岡島などの日本人選手がすぐそばで頑張っているのを感じた日は励まされる思いがしました。

Psychiatry Neuroimaging Laboratory PNL

は、2009年から2011年までShenton教授のもと、この研究所で統合失調症の脳画像研究をしました。写真右のShenton教授が率いるHarvard大学神経画像研究所Psychiatry Neuroimaging Laboratoryでは、ニューロサイエンティストとコンピュータサイエンティストが共同で研究を進めています。研究所内で最新の画像解析ソフトが開発され、それを用いて研究します。
ソフトに不具合が生じた時は、開発したコンピューターエンジニアが直接対応してくれます。ソフトを使用するニューロサイエンティストからコンピュータサイエンティストへのフィードバックが、最先端の画像解析ソフトの完成度を高めます。

研究テーマは自由

研究テーマは自由でした。自分の興味があることを研究します。論文を読んだり、スタッフと話し合ったりしながら、自分に何ができるかを考えて、綿密な研究計画を立てます。
研究を進めるにあたっては、毎週、教授か准教授との面談があって直接指導を受けます。そこでは、しっかりとした仮説を、確かな方法で検証しなければならないことを教えてもらいました。
“Make everything as simple as possible, but no simpler (by Einstein)” “When you see something interesting, jump out it even if it takes you away from comfortable place” “Everything is interesting if you look closely enough”
これらは、教えてもらった心構えの一部です。

写真は研究所内の私のオフィスです。留学当初は、7, 8人くらいが入る大きなルームに入っていましたが、半年くらいして、このような一人の部屋を与えられました。コンピューターも良いものにしてもらって広いスペースで快適に研究することができましたが、大部屋は大部屋で楽しかったことも多くありました。
あらゆる国の研究者と出会い、話しをすることができました。異なる宗教や文化や歴史を、その国の人から直接聞きました。このような交流は私にとってとても貴重な体験になりました。
研究を通して母国を行き来するような親友もできました。Inga KoerteChristian Clemmは、私と同じ時期にドイツのMünchen大学からこの研究所に留学してきた放射線科医と医学生です。  

日本人留学生は残念ながら年々減少傾向にあるようですが、出会った日本人の方々には、とてもよくしてもらいました。大学はもちろん、科や分野も超えた交流もありましたが、研究や臨床に対する思いを熱く語り合うことができました。日本にいたら会うことも話しをすることもなかった先生方です。いろんな分野にすごい日本人がいることを知りました。

Harvard の仲間たち

最後になりましたが、このような機会を与えてくださった、木下利彦教授、Shenton教授、神庭重信教授鬼塚俊明先生関西医科大学精神神経科学教室の皆様、Harvardの仲間たちに感謝申し上げます。

写真はボストンにいる間、一緒にお昼ご飯を食べてくれた仲間たちです。横浜市立大大学、東京大学、九州大学の先生方には、現地で大変お世話になりました。
大塚達以先生浅見剛先生大渓俊幸先生細川大雅先生前川敏彦先生六本木知秀先生、ありがとうございました。

齊藤 幸子

Bern大学精神科Neurophysiology 研究室に留学

留学生活

2011年4月1日より、スイスの首都にあるベルン大学精神科神経生理学教室に留学している西田圭一郎と申します。途中経過になりますが、現状を報告させて頂きます。


ベルン大学附属精神科病院

ベルン大学には、ニューロフィジオロジーグループのスーパーバイザーである吉村講師が、以前留学されていた繋がりで、私も留学する機会を頂きました。

働き出すまで海外に行ったことがなかった私ですが、研修医の時分、臨床で納得がいかないことが続いたことを機に大学院進学を選択し、その延長で留学に至りました。
顧みると、若干不思議な感じもしますが、今はとても楽しみながら異国での生活を送っております。

留学時期


Ticinoワークショップ参加時

私は学位取得後すぐに留学させて頂いたのですが、当初はもう少し英語の力量や業績を上げてからと考えていました。
ただ、木下教授から「留学は若ければ若いほどよい」と早めの留学を強く勧めていただき、最後の方は意地になりながら留学にこぎ着けました。

今の研究室における立場や、同僚との付き合い方を考慮すると、「まさにその通りだった」と感謝しております。同様に私からもアドバイスできることもあると思いますので、留学をすこしでも考えられている方がいたら、ぜひ声をかけて下さい。

今、考えていること、感じていること

さて、私の研究テーマは、「精神疾患患者における、時間経過に伴う思考マップの変化の特徴の解明」です。
現在は、物理学がバックボーンとなるKoenig教授の指導を受けながら、特殊な解析ソフトを使って統計処理を行い、認知症をはじめとした疾患別の思考の流れについての考察をすすめています。


Bern 街並み

こちらでは「自分のボスは自分」と初めにKoenig教授から申し渡されたとおり、基本的には、自分がやりたいことから、やれることまでを、独力で計画を作った後に、アドバイスをもらう形で研究を進めています。
当初そのスタイルに戸惑ったこともありますが、スイス人の現実主義的 (Pragmatism) なスタイルをまねて自分に取り入れているうちに、以前より有効かつ着実に物事を進めることができるようになりました。

また、慌ただしい日本の生活では消化することが難しかった臨床経験や、大げさに言うと哲学的なアイデアまでもが、すこしずつ研究結果と結びついてきたことも実感しています。研修医から始まって、関西医大で臨床医として培った経験が、橋渡しにとても役に立っています。

ベルンはアインシュタインが「特殊相対性理論」をはじめとするいわゆる3大論文を執筆した街として知られています。人口約13万人の小さな街ですが、大きさ、気品ともに、じっくり思索するには申し分のないところです。この街で、真摯に日々を過ごし、得た知識を土壌として、大きな成果を育てあげたいと思います。

西田 圭一郎

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