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海外留学

ボローニャ大学留学体験記 ―イタリアで学んだ精神医学と人生―
関西医科大学精神神経科学講座 診療教授 嶽北佳輝
 
2014年4月から2016年2月までの約2年間、私はイタリア・ボローニャ大学精神医学研究所に研究留学の機会を得ました。指導教官はAlessandro Serretti准教授(現コレ・ディ・エンナ大学精神科教授)。世界でも著名な精神薬理学者のひとりであり、彼の研究グループは、向精神薬の薬物反応性や遺伝的予測因子の研究を牽引しています。
 
私の研究テーマは以下の3つでした:
1.個体差に着目した抗精神病薬の反応性の検討
2.持効性抗精神病薬が認知機能および社会機能に与える影響の検討
3.麻酔薬が電気けいれん療法(ECT)に与える影響の検討
 
これらの研究成果は筆頭著者として8本の英文論文として発表され、国際的な学術雑誌に掲載されました。世界最古の大学であるボローニャ大学で、精神科医・研究者としての「軸」を作ることができた、貴重な時間でした。

イタリアにおける精神医療は、1978年に制定されたバザーリア法によって大きく変革されました。この法律は、公立精神科病院の新設・新規入院を禁止し、地域精神保健センターを中心とした精神医療への転換を促進しました。ボローニャ市内にある旧ロンカティ精神科病院は、かつて2000床規模の巨大病院でしたが、現在では15床の入院病棟と外来・相談機関からなる「地域精神保健センター」に再編されています。「自由こそ治療だ(La libertà è terapeutica)」という理念のもと、患者さんの尊厳を第一に考える姿勢は、私にとって新鮮で、かつ衝撃的でした。

Serretti教授は、臨床精神薬理学・精神遺伝学の分野で国際的な影響力をもつ研究者です。彼のもとでの研究は、ただ技術や知識を学ぶというよりも、“師の背中を見て技を盗む”ような職人技の修行に近いものでした。豊富な統計手法、臨床研究におけるデザインとデータ管理、そして英語での論文執筆指導など、帰国後にも活かされる「実戦的な力」を磨くことができました。

イタリアでの暮らしもまた、私にとって大きな学びでした。イタリア人の陽気さ、美食、芸術、建築、歴史――生活のすべてが「文化」そのものであり、そのなかに身を置くことは、精神科医としての感性を豊かにしてくれました。また、イタリアでは子ども連れの家庭に対する配慮が行き届いており、家族とともに安心して生活できる環境があります。私自身、家族とともに旧市街のアパートに暮らし、現地の住民との温かな交流を楽しむことができました。

「精神科医として何を大切にすべきか」。この問いに、留学を通して私は一つの答えを見出したように思います。それは、「目の前の患者さんを、ひとりの人間として理解し、寄り添うこと」。そして、そのためには、自分自身の価値観を相対化できる経験が必要です。異なる文化、異なる医療制度の中で生活することは、その大きな糧となります。

これから精神科医を志す皆さん、あるいは留学を夢見る皆さんへ、私から伝えたいことがあります。それは、「世界は広い」ということ、そして「日本を出てみると、日本がよりよく見える」ということです。留学には語学や手続き、家族のことなど、乗り越えるべき壁がたくさんあります。しかし、その先には、かけがえのない出会いや成長が待っています。私は心から、皆さんにもこの体験を味わってほしいと願っています。個人的には、未来の精神医学を共に切り拓いていける仲間との出会いを、心から楽しみにしています。是非、共に精神医学に取り組みましょう!

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